十夜歎仏(じゅうやたんぶつ)
十夜(じゅうや) |
十夜は、農作物の収穫感謝、先祖供養、最近亡くなった人の供養等をするために、毎年、お寺で行われものです。
十夜は、もともとは、陰暦の10月5日の夜から15日の朝まで、10日10夜にわたって昼夜ぶっ通しで念仏を唱える法要でした。
10日10夜の間修行を行うことは、仏の国で1000年間善行をすることよりも尊いといわれていたからです。
しかし、10日10夜続けることは現実には困難なので、現在は11月1日から20日くらいにかけて、寺院ごとに順番に行なわれます。
壱岐では、それぞれのお寺ごとに、1日だけ十夜が行われています。
十夜では、お経を唱えるときに、次にお話しする歎物(たんぶつ)というのが行われます。
歎仏(たんぶつ) |
壱岐の年中行事の1つに、歎物(たんぶつ)というのがあります。
歎物は、日本では、壱岐だけで行われています。
歎物とは、曹洞宗の寺院で主に行われ、仏を賛嘆し、仏の功徳をたたえて大勢の僧侶がいっせいに節(ふし)をつけて仏名(ぶつみょう・仏様の名前)を唱えることです。
言い換えれば、歎物というのは、毎年、十夜の時期に、僧侶が1つの寺に集まり、一斉にお経を唱えるものです。
歎物には、そのお寺の檀家の人たちが参加しますが、特に、その年に、家族を亡くした人たちは、歎物が行われる場所に、座って、お経を聴きます。
文化財 |
壱岐の歎仏は、文化財として、日本の中でも質の高いもので、これだけ大きな編成で、音楽的にも、宗教的にも優れている法会(ほうえ)は、とても珍しいものです。
このような、年中行事を、日常的に支えている壱岐の人達の信仰心の厚さ、教養水準の高さ、かつは天地自然に恵まれた生活の豊かさには、とても感心させられます。
太鼓や鐘の、独特の響きや音に合わせて、独特のリズムで読経が行われます。
僧侶の数は、6人以上で行われます。
和歎仏(わたんぶつ) |
仏様は、89仏あります。
この仏様を、53と36にそれぞれ分けます。
歎仏の種類には、発音の仕方によって、和歎仏(わたんぶつ)と唐歎仏(からたんぶつ)の2つがあります。
和歎仏は89の仏様のうち、前半の53の仏様を漢音で唱えます。
漢音というのは、唐の時代に、長安(今の西安)地方で用いられていた、当時の標準的な発音で、お経を唱えることです。
漢音は遣唐使、留学生、音博士などによって奈良時代・平安時代の初期に輸入されました。
唐歎仏(からたんぶつ) |
これに対して、唐歎仏は89仏様のうち、後半の36の仏様(これを未来仏といいます)を異国情緒あふれる唐音(とうおん)で唱えるものです。
唐音とは、宋、元、明、清の時代に、中国の禅院で用いられていた、当時の標準的な発音で、お経を唱えることです。
壱岐では唐歎仏が多く用いられますが、たまに和歎仏もあります。
通常の歎仏の場合には、仏名を漢音で唱えますが、壱岐では、後半の36の仏様を唐音で唱えます。
たとえば、釈尊なら「シキャ~メニフ」と発音します。
楽器 |
歎物の楽器には、サンテン、馨子(けいす)、木魚が使われます。
サンテン |
太鼓、鰐口(わにぐち)、妙鈑(みょうはち)の3つの楽器を1つにセットしたものをいいます。
太鼓 |
太鼓には緩急があり、太鼓の音の間に鰐口を入れます。
鰐口(わにぐち) |
鰐口は、打ち鳴らして音を出すための仏具の1つです。
多くは鋳銅(銅の鋳物)製ですが、まれに鋳鉄製や金銅(銅に鍍金を施したもの)製のものもみられます。
妙鈑(みょうはち) |
小さなシンバルのような楽器です。
鏧子(けいす) |
畳の上に置く鐘のようなものです。
朱塗りの台に載っていて、白い皮を巻いた撥(ばち)で打ちます。
読経の最初に、ゴーンと打って始まります。
読経の間にゴーン、ゴーン、ガチッ、と打ったりもします。
馨子は、場面が変わる時に打たれて、場面の一つ一つを明確にしていくためのものです。
写真では、大小2つある、鐘のうち、奥にある大きい方の鐘です。
小馨(しょうけい) |
馨子の脇に置きます。
上の写真では、大小2つある、鐘のうち、手前にある小さい方の鐘です。
引馨(いんきん) |
小馨を極度に小さくして取っ手を付け、携帯用にしたものです。
よくお坊さんが、手に持って、チーン、チーンと鳴らしているものです。
細い金属または木製の鉢(ばち)でたたきます。
馨子は、場面が変わる時に打たれますが、引馨は、場面のなかの1つ1つの動作をより細かく指示するために使用されます。
銅拍子(どうびょうし) |
銅拍子というのは、真鍮製で、手にもって打ち鳴らす2枚の打楽器で中くらいのシンバルのようなものです。
上の写真では、一番左手前に置いてあるものです。
木魚(もくぎょ) |
お経をあげるときに打ちます。
ポクポクポクという音のリズムは、快く耳に響きます。
木魚をたたくのは、とても難しく、速すぎてもいけないし、遅くてもいけないわけです。
お経の速度や太鼓、銅拍子もすべて、木魚の速さに合わせます。
木魚のリードによって、すべてが進みます。
写真では、一番手前に置いてあるものです。
方法 |
歎物は、これらの楽器に合わせて、一人の僧侶がリードボーカルを担当し、他の僧侶が追唱して仏名を唱えていきます。
(1)僧登場
全体をリードする僧のことを、導師といいます。
先ず、導師が、線香を1本立てます。
次に、箸を取り、ご飯とお汁を少々を取って、チョンチョンとお霊前 の隅に落とし、三界の無縁仏のために、これを食べておきなさいよ、 という意味を込めて、取り分けて置きます。
箸をまっすぐご飯に挿します。
ご本尊様、新仏さま腹いっぱい召し上がってください、という意味があります。
(2)お迎え
馨子、太鼓、妙鈑を鳴らし、仏様をお迎えします。
(3)三拝
全員の僧が3回、礼をします。
(4)読経
これから、いろいろな意味を持つお経が唱えられます。
お経を唱える時には、座って唱えたり、グルグル周りながら唱えたり、と、いろいろです。
また、散華といって、花の花弁を投げながらグルグル歩き周るのもあります。
(4)お水参り
僧がいろいろやった後、ご飯、箸、杉の葉、香炉をお盆に載せて置きます。
それを、周りの人が受け取って、皿の米を一つまみだけ鉢に入れ、ご飯粒も少し食べて鉢に入れます。
杉の葉を右に一度回し、その鉢を右手で持ち、左手を下から持ち添え、そっとささげながら三界の無縁仏 たちに進めます。
その後、香をまき、合唱して、次にまわします。
(6)焼香
下に置かないようにしてご飯を一口ずつ食べて、次の人にまわします。
(7)送り
出て行く仏様をお送りします。