長者の墓


長者原(ちょうじゃばる)

むか〜し、むか〜し、長者原(ちょうじゃばる)と呼ばれている場所に石ころ原という川原がありました。

ここには、とても貧しいけれども正直者で、仕事を一生懸命にする老夫婦が住んでいました。

その夫婦は、竜神様を信仰し、毎日欠かさず竜神様にお祈りをしていました。

でも、この夫婦には子供がいなかったので、毎日、竜神様に子供が授かりますように、と祈っておりました。

年末も押し迫ったある日、いつものように竜宮様に門松、年縄を奉納し、家に帰りました。




竜宮の使者

と、年末の夜も更けた頃、夫婦の枕元に竜宮の使者という者が現れ、「あなた達は、毎日竜宮を信じ、信仰も厚いので、竜神様がとても感動されています。

今夜、竜神様の命令であなた達をお迎えに参りました。」と言いました。

それを聞いて老夫婦はとても喜びましたが、「せっかく来ていただいても、私たちは、海の中に入ることができないので竜宮に行くことはできません。」と言って丁寧にことわりました。

使者はそれを聞いて、竜宮に行く道を指差すと、みるみうちに海が2つに裂けて海中に道ができました。

その道を歩いて竜宮に行く途中で使者が、「竜宮に行ったら竜神様からあなた達が欲しいと思っている宝物をいただけるでしょう。

そのときは、はきわら、が欲しいと言ってください。」と言って、老夫婦を竜宮へ連れて行きました。

竜神様は、2人をていねいにもてなし、いろいろなおいしい豪華な料理も食べさせてくれました。


はぎわら

帰るときに、竜神様が「あなた達が欲しいものを何でもあげるので、欲しいものを言いなさい。」と言うと、2人は、使者から言われたとおりに、「はぎわら」をください。」と言いました。

はぎわらは、竜宮でも貴重な宝物でした。

使者は、老夫婦に、はぎわらの使い方を次のように話しました。

「はぎわらの顔をなでて願いごとをすると何でも願いがかないます。

しかし、その代わりに、あなた達は、これからずっと何があってもぞうりをはいてはいけません。

また、夫婦の交わりをしてもいけません。」、というものでした。

はぎわらは、いつもぞうりをはかず、素足で汚い格好をしていましたが、顔をなでて願いごとをすると何でも手に入りました。

2人は、先ず、石ころだらけの原野を立派な田に変えてもらいました。

また、たくさんのお金も出してもらい、2人は、みるみるうちにお金持ちになり、蔵もたくさん建ち、長者になって何不自由なく暮らすことができるようになりました。


悩み

お金に不自しなくなった2人は、最後のお願いとして、「若くしてください。」と言いますと、たちまち、おじいさんはイケメンの男になり、おばあさんは透き通るような色白のきれいな女になり、周りからはとてもうらやましがられました。

若返った2人は、夫婦の交わりを持ちたいと思っていましたが、はぎわらは夫婦の交わりを禁じていたのでどうしようもありません。

このことは、若い2人にはとても辛いことでした。

また、雨の日も雪の日も、ぞうりをはいてはいけないので、このこともとても辛いものでした。


元に戻る

これでは長く生きていても何にもならないと思い、2人ははぎわらを竜宮に帰してしまいました。

やっかい者にされたはぎわらは、怒って、大きな岩をけとばしました。

岩は、まっぷたつに割れてしまいました。

この割れた岩が屏風岩(びょうぶいわ)と呼ばれ、今でも残っています。

じゃま者のはぎわらがいなくなって、2人は喜んで夫婦の交わりをしようとしたとたんに、大きな屋敷やたくさんあった蔵はたちまち消えて、もとの貧しいあばら家になりました。

また、立派な田んぼも、元の石ころ原に戻りました。

それだけではありません。

2人は、若さもなくなり、しらがだらけの元の老夫婦に戻り、一生を終えました。


写真の墓は、長者原崎の海岸にあり、石を積み上げただけの塚です。

ひろびろとして海岸の中に、ポツン、と建っているこの塚。

何となく昔のおもかげを残しています。

周辺は、貴重な化石が発見された場所でもあります。

その後、長崎の町人が、鯨組をこの長者原に造るために地面を掘ったところ、金のお膳と金の茶碗がそれぞれ1つずつ出たということです。

現在も地元の人たちを中心にしてお祭りが行われています。

いくらお金があっても、人間の本能は変わらないということでしょうか。

皆さんだったらどうされますか。